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十のちいさな 小さなものがたり 1~10

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7 神様からの贈り物

                   
 水の中から空を見ていた。揺らめく水面でそれは、幻想的で不思議な世界を作り出している。ひとりだけの秘密にしておくのは、もったいない気がした。かといって、みんなに教える気はない。
 クラスの人気者の真奈ちゃんは、心密かに思いを寄せている子だ。夏休みのプール開放日の今日も来ていた。
 真奈ちゃんだけに教えてあげようと思い、水の中から、泳ぐのが好きな真奈ちゃんを捜した。すぐに分かる水着を着ている。僕は、ひらひらしているスカートをつかんだ。
 きゃっ、だれ? と言って腕をつかまれて・・・腕をつかまれたことにびっくりして、鼻から水を吸い込んで、せきこんだ。
「あぐるやんか、なにすんのん、やらしい」
 体格のいい真奈ちゃんに引っ張られるようにしてプールサイドに上がり、先生の前に突き出されて、説教を受けた。
 先生の説教に泣いたのではなく、恥ずかしいからでもない。真奈ちゃんを怒らして、それから・・嫌われたと思って、泣いた。こらえていたのに、わぁ――ん、と声を上げて泣いた。どうして真奈ちゃんの水着をつかんだのかを、口で説明することなど出来ないから、ただ泣き続けた。
 ヒッ・・ヒッ・・ヒッ・・・プールサイドにひとり取り残された後も、泣き続けた。
 翌日から、夏休みのプールに行くのをやめた。

           ☆   ★   ☆

 高校の水泳部。世間では盆休みでもあり出席率が悪いので、今日は自由練習日となっている。
 僕は、水中に潜って瞑想するのが好きだ。息を止めていると、ドックドックという血液の流れる音が聞こえてくる。水中でのブゥワォ〜〜ンという、いろいろな音が集まって出来た音。そして空を見上げると、いつもとは違った様相で雲などが見える。
 その時、あの幻想的な現象を見た。
 同じクラブに所属している太田真奈さんも両親が仕事で忙しく、夏休みに家族でどこにも行くことが出来ないので、部活に参加していた。少しためらったが、水面に顔を出して太田さんを捜した。ちょうど、部室に戻って休憩しようとしていたらしい。たまたま運良く視線が合ったので、手招きをして口には指を立てた。首を傾げて僕の方を見ていたが、仲間の部員に何かを言って、ひとりでやって来た。
 僕は唇に指を立てたまま、入って来いよ、と動作で示して潜った。続いて潜って来てくれるかどうかなど、分からない。それでも息が続く限り、待つ!
 不審げに、それでも好奇心満々といった風情で潜って来てくれた太田さんに、水面を指し示した。
 息を止めて唇をしっかりと結んで見上げている顔の、目尻が下がり口角が上がっていく彼女の表情の変化を、じぃ〜っ、と見つめていた。
 天国にいる気分になってきた。多分天国って、こういうのも含めていいのだろう、と思う。