十のちいさな 小さなものがたり 1~10
ワァ――ドン、ドン、ドド〜ンドン、ドン、ドン、ドンドンドン、――ァァ〜、
じりじりと肌を焼きつける日差しの中、ここ甲子園球場に響き渡る応援団の歓声。
私は息子の雄姿を見るために、学校が用意した応援バスに同乗してやって来た。
吹奏学部のトランペットが高らかに吹かれ、同時に太鼓が打ち鳴らされる。そのリズムに合わせて、絵文字用の色つきのプラカードを高く揚げる生徒たち。
息子の悟(さとる)が小学3年生になると少年野球団を捜して、私は裏方を手伝った。
6年生になると外野を任され、孫に夢を託した父を連れて応援に行ったものだ。
一緒に入団した、仲良しの勇太君が投手である。
だが、中学生になると野球は辞めてしまい、学校の吹奏楽部に入ってしまった。トランペットを吹き始めたのだ。
「勇太な、学校のクラブやのうて、高槻のチームで野球続けるねんて。将来はプロに入りたい、ゆうてたわ。僕な、お父ちゃんの夢の為に野球するつもりない。僕な、音楽やりたいねん」
私は決して、野球を無理強いしていないつもりだったのだが。
父は、「エエがなエエがな、やりたいことさしたれや」と言う。
あれっ? えらい言うことが違うがな・・・。
悟が通う私立高校は、吹奏楽の全国大会に連続出場しており、音楽推薦で入学した。
また近年、野球でも大阪大会では、上位の常連校になっていた。
私にとって、夢の甲子園である。
そして初めて、悟の演奏する姿を目にした。
顔一面に浮かぶ汗の玉、顎から滴り落ちる汗。全身びっしょりの汗は、悟の身を包んでいるパレード用の白い衣装を濡らしてしまっていた。頬を膨らませた真っ赤な顔で、高らかにトランペットを吹いている。誇らしげに、そして楽しそうに。
投手は、マウンド上で相手打者を睨みつけた後、捕手が出すサインにうなずいた。
私は、周囲の応援団に合わせて手を叩きながら、声をからして連呼した。
「あとふたり! あとふたり! 勇太ぁ〜がんばれ〜」
仲良しの勇太は、スポーツ推薦入学で悟と同じ学校に通っていた。
2012.8.9
作品名:十のちいさな 小さなものがたり 1~10 作家名:健忘真実