十のちいさな 小さなものがたり 1~10
6 響け、高らかに!
♪ おもい〜こんだ〜らしれんのみ〜ち〜を〜ゆくが〜おとこの〜どこん〜じょ〜お〜 ………………………………
「ワシがぁ子供の頃のスーパーヒーローちゅうたらやな、巨人、大鵬、力道山、それから卵焼き、やな」
なぜ卵焼きがスーパーヒーローなのかが分からないのだが、父の口癖だった。
父は中学のクラブで野球を初めて、高校ではバッティング投手だったとか。
『巨人の星』というテレビアニメにはまっていたという。俺が幼い頃には、その歌をよく歌っていた。
「父ちゃん、こんだら、って何?」
「ああ、グランドを整地するローラーのことや。重いコンダラをひとりでふたつ引っ張って、足腰鍛えるんや。投手と捕手で引っ張ったら四つ連らなった道が出来るやろ、バッテリーの強い絆、つまり友情を育みながら根性を鍛えていこう、エエ歌やないか・・・ワシが活躍しとった頃の野球はひたすら、友情と根性、やったんやで」
父は自分のかなわなかった夢を、息子である俺に託した。
借家の部屋の壁にボールが通る穴を開けて、中学生である俺に、坐った状態での投球練習を課した。ほとんどの球は、壁に当たって跳ね返ってくる。たまたま穴を通り抜けることがあり、その後で現れた父を見て、驚いたものだ。目に青タンを作っているのである。
高校は野球の強豪校に行かせようと思っていたようだが、毎年ぎりぎりの部員しか集まらない、時には他のクラブ員をかき集めて、人数を揃えるという高校に入学した。
その高校で、1年生にもかかわらず、いきなり投手となり、父は喜んだ。
「よし! 部員数がすくのうても、投手力で甲子園、目指せるぞ」
父は、大リーグボール養成ギプスならぬ、足首と手首に巻く、重りの入ったバンドを買って来た。
「これで、パワーアップや!」
『巨人の星』の影響を完全に受けている父を、俺は信じていた。重りを付けて投球練習をした後に重りをはずすと、球速は確実にアップしている、気がした。
地方大会第一戦。
マウンドに立った俺は、バッターを睨み据えたまま、大きく振りかぶって左足を上げ右肩を回転させ、思いっきり前方に左足を着地させて体重移動をすると・・・あっ、膝に激痛が・・・めげずに右肘を振り伸ばし、同時に手首を返した・・・つぅぅ・・・肘にも痛みが走り、その場で右膝をついてしまった。
代えの投手がいなかった為、即棄権となり、ナインは、悔し涙を残して球場を去ったのである。
作品名:十のちいさな 小さなものがたり 1~10 作家名:健忘真実