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十のちいさな 小さなものがたり 1~10

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「嬶・・・お玉!」喜び勇んで玄関の扉を引くと、女房の名を呼んだ。
 お玉は酒の支度をしていた。
「成功だったんだね。おめでとう」
「嬶、お前に見てほしかったぜ」
「見てましたよ、高い所に上がって。見事な昇り龍でした」
 幸助は怪訝な表情を浮かべた。ここいらで高い所とはどこだろう、と思ったのである。
「親方に、お前の協力で作った、と言うと、是非お前に会わせてくれ、とおっしゃってな。明日の朝、見えるんだ。」
「そうですか・・・それより、今夜はお酒を用意しておきました。ずっと酒断ちされてたけど、今こそ飲まないと」
「そうだな」

 玉は、酒を入れた茶碗を盆にのせて差し出した。
 幸助は茶碗を取ると鼻に近づけ、久し振りの酒の香りを胸をゆっくりと膨らませてスーッと吸いこむと、口を茶碗に持っていきグビッグビッグビッと一気にあおった。
「プハーッうめぇー、酒の味ってこんなだったかなぁ〜」
 玉は寂しげな表情をして、満足げな幸助をじぃ―っ、と見つめていた。
 玉は、誰とも会ってはならなかったのである。


 翌朝、幸助の住まいを訪れた清兵衛が見たのは、すでに事切れた幸助と、幸助にかぶさるようにして死んでいる老猫だった。
 そばに転がっている空になった茶碗には、酒の匂いと粉末の毒がこびりついていた。


                       2012.8.30