海岸の思ひ出
そんなある日、カイエンが遊びに来たんだ。
「ハルー、魚釣りに行こうぜ!」
僕たちは釣竿とバケツを持って海岸に飛び出した。
すっごく綺麗な青空だった。動きの早い、すっごく大きな雲たちが、その影と一緒にどんどん進んでいた。太陽の光も眩しくて、白い砂浜の上で、ふわふわと反射していた。
海岸の崖の根元にある岩場が、僕たちのいつもの場所だった。釣竿を持った僕たちは、それぞれのお気に入りの位置につくと、釣り針を海面に放った。
「ねえ、カイエン」
僕は聞いてみた。
「夜に、おじさんがこの崖の上からずっと海を見てるの知ってる?」
「はあ? なんだいそりゃ?」
「知らないかい?」
「別に、見てるぐらい、なんだってないじゃん?」
そりゃ、そうだけど……。
どうも、このことについて気にしているのは、僕だけなのかもしれない。何でだろ? そういえば僕も、つい最近までは、このことで深く考えたりしてなかったのかなあ……。
そんなことを考えているうちに、僕の竿が引っ張られる感覚をした。海面を見遣ると、浮がぐいぐいと浮き沈みしていた。
「うっは! これはでかいよ!」
「おお、ハルー! 見ろよあの魚! クソでけえじゃん!」
僕はすっごく興奮してたから、竿をものすっごく強い力で握り締めていた。
足に思いっきり力を込めて、ふんばった。ぐいと、竿を引き寄せる。けど、魚の力はものすごくて、引き寄せられなかった。
ふと、魚の抵抗がふっと軽くなった。僕があれ? って、一瞬拍子抜けした途端、さっきまでとは比べ物にならない力で、僕は引っ張られた。
たまらずに、海に落っこちた。そしてそのまま、海の中にぐいぐいとひきずり込まれていった。カイエンの叫び声が聞こえた気がしたけど、なんて言ってるのか全然わからなかった。