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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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海岸の思ひ出

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おじさんが海を眺め始めるようになったのは、いつのころからなんだろう?
月明かりの綺麗な、晴れた夜。おじさんは海沿いの崖の上に立って、じいっと、海を見つめてる。
 僕の家は、海岸沿いにあるから、崖の上に立ってるおじさんの様子がよく見える。僕はよく、両の腕で頬杖をたてながら、部屋の窓からその姿を見守ってるんだ。
おじさんは腕を組んで、崖の縁のギリギリのところに立って、海を眺めてる。月明かりを浴びている。星たちがちらちら歌うのを聞き流している。夏には涼しい潮風で、冬には冷たいそよ風で、衣の裾は、ひらひらと揺れている……その様子が、僕には何だか、もの悲しく見えるんだ。
 普段のおじさんは、全然そんな様子はないんだ。
 僕がカイエンと一緒に遊びに行くときは、仕事をしているときですら、いつだって、笑顔で出迎えてくれる。すっごく優しくて、しかも、仕事の関係でいつも一緒にいるシンドラー兄ちゃんよりも、遥かに物知りで、色んなことを話してくれるんだ。
 おじさんと一緒にいる時間は楽しいし、おじさんもすごく楽しそうにしてくれる。それに、おじさんは僕たちに会うときはいつだって、元気そうなんだ。
 シンドラー兄ちゃんも「先生はいつも元気な方だよ」って、言ってたことがある。もう六十四歳だっていうのに、全く健康なんだ、って。
だから、僕もそんなに深刻には考えてないんだけど……。
けど、やっぱり、なんだが気になるんだ……海を眺めるおじさんの様子は。

         
作品名:海岸の思ひ出 作家名:炬善(ごぜん)