蒼空の向こう
吸い込まれそうな笑顔。僕は、汗を掻いていた。
「次は私が歌います・・・」
「おお〜〜中洲の歌姫が早くも登場か・・・ガハハ・・・」
「先生の後だから緊張しますけど・・・」
ブルーモルフォが手を挙げると、カウンターの子が頷いた。歌う曲が、暗黙のうちに決まっているようだ。
前奏が流れる。知っている曲だ。しかも、大好きな曲。生前、恭子が、口ずさんでいた曲。The end of the world・・・邦題は「この世の果てに・・・」
ブルーモルフォは・・・座ったまま、背筋を伸ばして・・・「この世の果てに」・・・を歌い出した。
中洲の歌姫・・・その歌唱力は、半端では無かった。
僕は鳥肌が立った。あの時に似ている。ニューヨークにいた時、ハーレムの教会で、初めてゴスペルを聞いた。魂を揺さぶられた。あの時と、同じ感動を覚えた。
僕は、ブルーモルフォに吸い寄せられるように、赤い唇を・・・そして、黒い瞳を、交互に見つめた。
何処までも甘く・・・何処までも切ない歌声。いつしか、その黒い瞳が潤んでいるのに気づいた。黒い潤いの中には、何が潜んでいるのか・・・。その瞳は、僕へ向けられた。
僕は、夜の世界で舞う蝶の生態系を知らない。目の前にいるブルーモルフォが、危険な生き物に見えてきた。しかし、その魅力には逆らえそうに無い・・・。僕は、その濡れた瞳に吸い込まれた。止めを刺されたような気がした。



