蒼空の向こう
僕は、カラオケが好きではない。正確に言えば・・・カラオケスナック・・・が好きではない。拍手を強要するのも、されるのも好きではない。だが、その場の空気を変えるには、マイクを持つしか手が無いと思った。それしか、思い浮かばなかった。
「素敵!・・・先生何をお歌いになりますか?」
「××・・・・を・・・」
「川の流れを・・・抱いて・・・眠りたい?」
「ええ・・・それをお願いします」
ブルーモルフォが、カウンターに指示を出した。前奏が流れると、酔客が無遠慮な声を飛ばした。
「この歌を下手に歌われちゃ、困るよなぁ〜〜」
最悪!
西田社長が眉を寄せた。僕は、平田社長の顔が豹変したのを見逃さなかった。ブルーモルフォは、白い胸の谷間を隠す様にして手を組んだ。神様にでもお願いしているのだろうか。
そんな緊張の空気の中、僕は歌った。後にも先にも、この時程、真剣に歌った覚えが無い。
間奏の沈黙が、とても、長く感じた。
歌い終わると、先程、罵声を浴びせた酔客が拍手をした。西田社長が笑顔に戻り、平田社長も元の顔に戻った。川崎部長は、形相を崩して、手を叩いている。
ブルーモルフォが、僕からマイクを受け取った。作りたての水割りを、僕に差し出した。



