蒼空の向こう
「平田社長・・・はじめ君には、概略は話していますから、今日は平田社長がはじめ君を口説いてくださいよ」
「任せてくださいよ・・・口説くのは得意だ・・・ガハハハ・・・まずは、お近づきに乾杯しましょう!・・・あ、由香里ちゃん・・・麻美ちゃんを呼んできなさい・・・先生に紹介しとくから・・・」
由香里と呼ばれた、20そこそこのホステスが、持ちかけたグラスを置いて、カウンター席に向かった。
「では・・・乾杯!」
僕は、こういう席が大の苦手だった。用件さえ終われば、そそくさと退散し、何処かの小料理屋の暖簾を潜りたいと思いながら、薄くつくられた、ヘネシーの水割りを一口飲んだ。
僕の視線は、平田社長の上に飾られている、大きなポスターに向いていた。
誰が撮ったのか、何処なのかも判らない・・・南の島・・・青い空・・・ビーチ・・・椰子の木。
いつかは、こういうリゾートにでも行ってみたいな・・・と思いつつ、ぼんやりとしていると、あの香りがした・・・シャネルNo5.僕の心の中に、漣が起きた。
「平田社長・・・いらっしゃいませ〜」
「来た、来た!中洲ナンバーワンの歌い姫・・・あさみちゃん!」
「嫌ですよ〜そんなんじゃないですから〜」
「梅雨川先生、このあさみちゃんはね・・・とにかく、歌が上手い!プロの歌手以上に・・・とにかく上手い!上手いのは、歌だけじゃないかもな・・・?」
「何のことですか〜?」



