蒼空の向こう
その時、胸の谷間から、控えめな乳房が窺えた。乳房は何処までも白く、柔らかそうに感じた。
ほんの、数秒だった・・・ブルーモルフォは、僕の視界から消えた。だが、斜め後方に、彼女の気配を感じ取る。その時、僕の嗅覚を、馴染んだ匂いが刺激した。シャネルNo5.死んだ恭子が愛用していたパヒューム。
僕は振り向いた。再び、ブルーモルフォと視線が絡んだ。
今度はしっかりと・・・絡んだ。ブルーモルフォは、僕の視線に怯む様子も無く、小さく微笑んだ。僕は瞼を閉じ、絡みを解いた。
「西田社長!どうぞ、どうぞ、座ってください・・・こっちは部長の川崎です」
紹介が始まった。H社の社長、平田正二。グレイのダブルスーツに身を固めた体躯は、恰幅も良く、太くて黒々した髪を載せた頭に太い眉。それに比例した、しっかりとした鼻筋。そして、分厚い唇。無理に見開いたかのような目を、僕に向けてきた。それでいて、笑顔を作っているから、異様な印象を受けた。42歳だと言う。
川崎と呼ばれた部長は、ずんぐりとした体型で、丸顔。髪も薄いが、40になったばかりだそうだ。善良そうな印象を受けた。
ホステスが二人やって来て、接待がはじまった。僕以外は常連のようで、ホステス達とは、名前で呼び合っていた。
「いや〜良く来てくれました〜、梅雨川先生!西田社長から噂は聞いていますよ〜」
いきなりの、ジャブ攻撃・・・「先生」と呼ばれるのは好まない。まず、先生でもなんでもないのだ。
「恐縮です・・・」



