蒼空の向こう
「そういう訳にはいかないよ〜本当に助かっているし、あれでも、随分と値切ったつもりだけどね・・・じゃあ、先方には電話しとくから」
「お任せします」
「うん。じゃあ、土曜日ね・・・バイバイ!チャーリー」
僕が西田社長に心を許しているのは、彼が大の犬好きという所にも理由があった。チャーリーも良く懐いている。僕は、流れに身を任せる事にした。
雑居ビルの3階だったか4階だったか・・・店の名前も、記憶から消えている。とあるカラオケスナック。長いカウンターと、ボックス席が4〜5席。暗めの照明。ほろ酔い気分で拍手を強制する酔客達。
僕は、元来こういったカラオケスナックや、女の艶香を売り物にする、クラブという場所が好きではなかった。明らかに、小料理屋で酒を愉しむ口だ。
中洲の夜は、まだ始まったばかりだ。僕は西田社長の後について、久々に夜の中洲へと身を浸していった。
一番奥のボックス席から、手を振る男性がいる。その横で頭の薄くなった男性が会釈した。どちらも、年の頃は40代半ばだろうか・・・面談の相手だと判る。
西田社長は軽く手を挙げながら近づいた。僕は、大柄な西田社長の背中に隠れるようにして、後に続く。
その時、カウンター奥のドアが開き、煌びやかな青いドレスを身に纏った女性が現れた。
僕は、その女性に目を奪われた。いや、僕でなくとも、誰もが目を奪われるに違いない。その証拠に、客の視線は一斉に、その女性に集中した。
マイクを握って熱唱しているサラリーマン風の男性だけは、女性の出現に気づかなかったらしく、唾を飛ばし続けていた。