蒼空の向こう
会社を辞め、仕事もしない・・・収入が無いのに、支出だけは確実に発生する。別に、食べるために・・・という訳でもなかったが、僕は溜まったデザインを少しずつやるようになった。
当時、デザイナー達にパソコンが普及し始めたばかりだったが、僕は既に2台目のパソコンを使っていた。デザイナー専用のMacだ。当時はフルセットで100万円近くした。
僕はパソコンに向かい、チーム・オーダーのデザインを始めた。
絵の具を使う仕事とは違い、何度でもやり直しが効く。僕は、次第にその仕事が面白くなり、熱中した。気がつけば朝・・・という事も珍しくは無かった。
月末には、西田氏が現金を置いていく。金額が書き込まれた領収証にサインをし、ハンコを押すだけ。デザイン一つの代金が幾らなのかも知らなかった。ただ、僕とチャーリーが食べていくには、充分すぎる程のお金だった。
「はじめ君。助かるよ・・・この調子で頼むね。仕事は山程あるんだ」
「いいですよ・・・どうせやることないし。ナンボでも持って来てください」
「少しは元気が出たようだね」
「落ち込んでばかりもいられませんから」
「そうだよ。元気出して・・・はじめ君。実はね、紹介したい人がいるんだ」
「人に合うのは・・・どうも、気が進まないんですけど・・・」
「まぁ、そう言わずに・・・雑玩問屋の社長なんだけどね・・・最近、跳ぶ鳥を落とす勢いでさ・・・企画部が出来て、自社製品も作って行くそうなんだよ・・・そこで、企画室のアドバイザーを捜しているんだ。・・・で、はじめ君の事を話したら、是非、会いたいと言ってね・・・」