蒼空の向こう
当時は競合相手も無く、顧客をほぼ独占していた。濡れ手に粟・・・とまでは行かなくとも、羽振りは良さそうだった。
更に遡ること一年。僕が勤めていた広告代理店に、総合プロデュースを頼んできたのが、西田氏との最初の出会いになる。
担当は、若手の岡田が受け持った。当初、岡田は、素人相手の仕事だから楽勝だと嘯いていた。しかし、西田氏のデザイン・クォリティに対するハードルは思ったよりも高く、岡田は、度々、苦戦を強いられていた。
そんな時、助け舟を出していたのが僕だった。
僕が会社を辞めたのを機に、西田氏は、直接、僕にデザインを頼むようになったのだ。受ける気は無かった。やる気も無かった。なのに、ほぼ毎日のように家を覗いては、仕事を置いていく。
「はじめ君・・・いるね〜・・・また、デザインを頼むよ」
「西田さん・・・ゴメン、直ぐには出来そうにないですよ・・・」
「あ、いいから・・・ゆっくりでいいよ。それに、はじめ君に頼んだ方が安いだろう?助けてよ」
「別に・・・お金はいいんですけど・・・」
「こんな仕事でつまんないだろうけど・・・協力してよ」
「・・・いつまでですか?」
「1ヶ月先でいいから・・・のんびりやって」
そんな感じで、仕事だけが溜まっていく。西田氏の気持ちはありがたかった。