蒼空の向こう
僕は素肌の上からズボンを穿き、赤いブルゾンを羽織った。
僕はズタズタの心に自ら塩を擦り込んだ事を後悔した。発作的に取った行動が滑稽にも思えた。
海水を含んだ衣服は不快感を覚える。しかし、その不快感も生きている証のように感じた。
「チャーリー・・・帰ろう・・・お腹が空いたろう?」
僕たちは、停めてある車に向かってゆっくりと歩いた。大小の二つの影が上下に揺れる。
キーは挿したままにしておいた。助手席のドアを開けると、チャーリーは飛び乗り、前を向いて座った。
僕はシートに深く腰を下ろすと、キーを回してエンジンに火を入れた。
「チャーリー・・・頑張って生きるか」
声を掛けられて、チャーリーはじっと僕の顔を見詰めていた。
シフトをローギアに押し込むと、僕たちは家路へと向かった。
空には満天の星。ベタ凪の海の上には優しい満月が昇っていた。