蒼空の向こう
僕は、全裸で夕陽に赤く染まっていた。流木に濡れた服をかけて乾かした。
チャーリーの毛は既に乾いていた。僕は生まれたままの姿で、沈む夕陽を眺めていた。チャーリーはじっと寄り添っている。
何故、海に飛び込んだのか・・・何故、生き延びようともがいたのかを考えた。死ぬ事が怖かった訳ではなかった。あのまま、もう少しだけ時間が有れば終止符を打てたはずだ。チャーリーのせいだと思う。
なぜ、どうやってチャーリーがやって来たのか・・・僕が泳いでいると思って飛び込んできたのか。はたまた、助けに来たのか・・・それは判らない。
僕はじっと寄り添うチャーリーを見詰めた。首筋を撫でると、ゆっくりとシッポを振った。
涙が溢れ、胸が熱くなった。僕は嗚咽しながらも、ずっとチャーリーを撫でていた。
真っ赤に潰れた太陽が、彼方の霞の中へ姿を消そうとしていた。
沈んだ太陽は明日も同じように昇り、世界を照らすのだろう。それは、何時の世も普遍なもの。
自分の命よりも大事なものをなくした時、人はどう、人生に立ち向かって行けば良いのだろうか。
タプタプという漣が岩を撃つ音だけが聞こえてくる。
太陽が完全に沈んだ。西の空はピンクから紫に染まっていく。目線を上げれば、宵の明星が輝いていた。
ふと、故郷の海を思い浮かべた。
幼いころ、漁師になる夢を抱いた何処までも続く海。目の前の海はその海と繋がっている。
水平線の彼方に入道雲はない。瞳を閉じるとあの眩しいまでの力強い聳え立つ入道雲が浮かんだ。すると、少しだけ生きる勇気がわいた。