蒼空の向こう
僕はうっすらと瞼を開いた。
飛び込んだ時にサングラスは失っていた。養分の豊富な沿岸の海水は少しだけ濁っている。その濁りの中に幾筋もの光が差し込み、ユラユラと揺らめいていた。
もう少しだ・・・もう少しで楽になれる・・・。
僕の肩に何かが当たった。しかし、それを意識出来る程の思考力は、もう無い。
目指す先は唯一つ。光が差し込む揺らめきの青い海の底。願わくば、故郷の海に沈みたかった。
僕は口を開けた。海水を嚥下する。咽る・・・海水がまた入る。
再び肩に何かが当たった。今度は数回・・・肩を引っかくように・・・僕は沈みながら首を傾けて、目を開いた。
ブルゾンに犬の前足が絡まっていた。チャーリーが溺れかけている・・・。
というより、沈み行く男の道連れになろうとしていた。
僕は振り払おうとして暴れた、引かれてチャーリーが水中に沈む。僕は残された力で海中を蹴った。
顎を海面から突き出すと一気に酸素を補給する。ヒューッ・・・という吸気音と共に、僕はチャーリーを引き寄せた。
チャーリーも、かなりの水を飲み込んだのか、力が無い。弱っていた。
「ウガッ・・・ガッ・・・チャ・・・チャーリー・・・何で・・・ウググッ」
僕は、更にチャーリーを引き寄せると、首輪を掴んで頭を上げた。チャーリーも、必死の形相で酸素を求めた。
「ブシュッ・・・ブュシュッ・・・・」
チャーリーは海水を飲み込んでは吐き出す。