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つゆかわはじめ
つゆかわはじめ
novelistID. 29805
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蒼空の向こう

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 何処にでもあるような、佐賀は唐津の港町。僕はチャーリーと一緒に防波堤の先端に佇ずんでいた。
 堤防の裏側は岩場が続いている。静かに打ち寄せる波が岩場を叩き、タプタプと長閑な音を立てていた。
 波止場の手前には広い駐車場があり、僕は乗ってきたブリティッシュ・グリーンのロードスターを放置していた。

 九月は曖昧な季節。つい先日までの蝉時雨が嘘のように止み、木陰に秋の気配を感じる。一方、日中の残暑は微かにだが、夏の記憶を残していた。

 僕は先月の10日に最愛の妻に先立たれた。急性骨髄性白血病。
 必死の看病の甲斐も無く、妻の体は静かにその機能を止めた。享年35歳。
 幸せの絶頂を襲った悲劇は、僕の精神を再生の可能性が無い程、ズタズタに切り刻んだ。
 唯一の救いは、愛犬チャーリー。死んだ恭子との人生の最小公倍数。
短い間だったが、僕達はこのビーグル犬を我が子のように愛した。

 僕は、ポケットからラッキーストライクを出すと、ジッポライターで火をつけた。米軍御用達のジッポライターは少々の風にも炎が消える事がない。
 カシャッ・・・という音を出し、ライターの蓋を閉じると紫煙を吐き出した。
 吐き出された紫煙は瞬く間に白い煙となって飛散した。行き先を追う間も無い。

 チャーリーは尻尾をゆっくりと振ると、僕に身を預けるように寄り添ってきた。

作品名:蒼空の向こう 作家名:つゆかわはじめ