蒼空の向こう
ハーレムの教会。生まれて始めてゴスペルを見た。聞いた。感動で涙が流れた。隣の席の見知らぬ老婆が、僕を抱きしめてくれた。教会を出る時に、開演前に会ったマイケルと出くわした。僕が涙を浮かべながらその感動を述べると、マイケルが抱きしめてくれた。その妻のアイシャも抱きしめてくれた。
「はじめ!気をつけて帰るんだよ・・・ここはハーレムなんだ!」
ニューヨークでは流しのタクシーなど皆無だ。安全な通りまで走るしかない。
「ありがとう!プラザまで走るよ!」
「幸運を!」
「God Bless!」
僕は日本にいる恭子の顔を思い浮かべながら、セントラルパークの脇道を真っ直ぐに南へ進んだ。崎戸の事が思い出された。僕は走り出した。
夏の空。聳え立つ、彼方の動かない入道雲。青空の向こうには恭子の笑顔。
恭子はもうこの世にはいない。
享年35歳。
僕はいつも走り続けている。瞳を閉じて崎戸を想うと、いつも聞こえてくる。島のおばさんたちの声。
「はじめ〜!もっと、早く走れんとか〜〜がんばれ〜!はじめ、がんばれ〜!」