蒼空の向こう
第二章・ゴスペル
僕の記憶が正しければ・・・。
1986年2月。
僕は凍てつくニューヨークに居た。
クラスが休校になったため、セントラルパークを北へと歩く。
公園の中の池は分厚い氷が張り、スケートリンクになっていた。
この時期のニューヨークは、汚い言葉で言えばコールドの頭にファッ・・・キンが付く。
クソ寒いと言う意味だ。
毎年の事だが数十人のホームレスが寒さで死んでいく。
全くと言って良いほど警戒心を無くしたリスが近寄って来た。
「すまんな・・・何も無いんだよ。これでガマンしてくれ」
僕はコートのポケットから落花生を1つ放り投げた。リスが落花生を拾うかどうか確認する必要もない。確実に持ち去るからだ。僕は振り向く事無く、歩き続けた。
セントラルパークを突き抜け、大通りに出ると丁度110丁目。そこから東へ向かい、イーストハーレムへ入った。
この辺りだが・・・目の前に古びた教会が見えてきた。
「迷える羊よ、お入りなさい!」とでも言うかのように開かれた門をくぐり、大きく古めかしい木製のドアを開くと、いきなり暖かい空気に包み込まれた。
凍りかけていた髪までもが優しい空気に包まれ、解凍されていくようだ。そこいら中の筋肉が緊張から解き放たれ、教会独特の神聖な香りが鼻腔一杯に充満した。
一瞬、神を信じたくなった。