蒼空の向こう
悦子と香織は、散々恭子を冷やかして、駅のある方へ去っていった。
ふと、僕は、大事な事を思い出した。画材屋に行きたかったのだ。恭子に、その事を言うと、自分が案内すると言って、僕の手を引いて行った。
やれやれと思う。なかなか気が強そうだ。繋いだ手を離してくれなかった。
画材屋は四階建てのビルになっている。僕は何が何だか判らない。結局、恭子のアドバイスを受けながら、画材を買い込んで帰路についた。
天神から西行きのバスに乗った。運良く席が空いていて、僕と恭子は並んで座った。
バスに乗り込む時に、また手を引かれた。繋いだ手が汗ばんでいる。それでも恭子は手を離そうとしなかった。僕は放っておいた。
僕は、働き出してから、大将に全てを話した。
大将は腕組みをして、小さく首を縦に振りながら、黙って聞いていた。
僕が全てを話し終わると、「応援するから頑張れ」と言ってくれた。
大将は自宅の横に小さなアパートを所有していた。僕はそのアパートに破格の家賃(五千円)で住まわせてもらっている。
広さは須崎の時と変わらないが、部屋には朝陽が差し込み、風呂もある。日雇いをしていた時からすれば、暮らし振りは格段良くなった。何よりお金を貯められる。
朝4時の魚市場での仕入れから大将と行動を共にした。誰よりも早く、店に入って働いた。
受けた恩に少しでも報いたかった。大先輩の健さんの手厳しい教えに、必死で喰らい付いていった。大将は働きに応じて給料も上げてくれた。
バス停から少しだけ川沿いを歩くとアパートに着く。その隣が香月邸だ。
「恭子さん、今日はありがとうございました。じゃあ、僕は、ここで」
「だめよ」