蒼空の向こう
こうして、僕の板前修業が始まるのである。
人の出会いの「不思議」である。
あの、天神3丁目の自動販売機の前に僕が立たなければ・・・大将がタバコを吸いに表に出なければ、この出会いは無かっただろう。
帰り際、大将が日当だと言って1万円をくれた。僕は深々と頭を下げた。
僕はアパートに向かって走った。
途中、二つの橋を渡る。弁天橋と大黒橋。大黒橋の真ん中で立ち止まった。苦しくなって膝を折る。肩で息をする。立ち上がって水面を見た。
中洲のネオンが煌いていた。見上げても街が明るすぎて星は見えない。
満月だったか、三日月だったか・・・もう覚えていない。
ただ、見上げたその先に、とても優しい月が上っていた事だけは記憶に残っている。