蒼空の向こう
日雇いを始めてから余り人と会話したことが無い。
何よりも、香月と名乗る大将の笑顔が嬉しかったのかもしれない。
久しぶりに人に触れた気がした。
僕は改めて店内を見渡した。
厨房には3人の男性がいる。ホールには3人の女性。20代後半から30代前半だろう。
皆、笑顔で働いている。その笑顔がとても羨ましく感じた。
一時間後、さらに客が引けた。
僕は皆が呼び合っているのを聞いて、それぞれの名前を覚えた。
ホール係:きょうこ、ひろみ。そして、ひろこ。
厨房:けんさん、じゅん、たー坊。どんな字を書くのかは判らない。
客がまばらになった。
「きょうこ」と「ひろみ」が、いちばん大きなテーブルに豪華な料理を並べていた。
大将に呼ばれた。
「はじめ君!飯くうぞ!・・・前掛けば取ってから早う来んね」
驚いた。テーブルの豪華な料理は皆の夕食だったのだ。遅い予約客の為の準備だと思っていた。見たことも無い料理もあった。
普段、食堂の安い定食しか食べたことが無い僕にとっては驚きの夕食だった。
ご飯を何度もオカワリした。
「あ、皆に紹介しとくね。はじめ君・・・・えっと・・・苗字はなんやったかね」
「梅雨川です」
「そうそう、梅雨川はじめ君。そこで・・・自動販売機の前で拾うたったい。ガハハハハ・・・・・」