蒼空の向こう
突然、声を掛けられた。
「おい!兄さん!」
僕は反射的に振り向いた。
「兄さん、今、暇か?」
一瞬、何の事か分からなかった。目の前には調理服姿の男が笑顔で立っている。そして、僕に「暇か?」と聞いている。会った事も無い、見た事も無い人だった。
「僕・・・ですか?」
「兄さんは、あんたしかおらんばい・・・・時間、あるね?」
「はぁ・・・暇は暇ですが・・・」
「そうね・・・ちょっと、店が忙しいでさ・・・皿洗いば手伝ってくれんね」
「はぁ・・・それくらいなら・・・どうせ暇ですから」
「そうね!助かる!・・・早う、中に入って前掛けつけて・・・ほら!」
僕は背中を押されて店内に入った。三〇坪程の店内は満席状態。ホールも厨房も大忙しのようだ。
「弘ちゃん!・・・ちょっと、前掛けば持って来ちゃらんね!」
「は〜〜い!」
僕はようやく事態が飲み込めた。
僕はスカウトされたのだ。訳の分からないまま、承諾してしまった。こうなったら言われるままに皿洗いを手伝うしかない。