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つゆかわはじめ
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蒼空の向こう

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第10章・板前修業

 福岡に来て2度目の夏が来た。
 博多の街は「山笠(やまかさ)」一色になっていた。
 祭りは一日に始まり、15日早朝の「追い山」で幕を閉じる。
 
 僕が住むアパートは、祭りのエリアのど真ん中だ。
 締め込・ハッピ姿の男達が仕事を休んで祭りに熱中していた。
 そういう男達を福岡では「のぼせもん」と呼ぶが、これは愚弄した言葉ではなく、むしろ愛着を持って使われているようだった。

 天神と言う繁華街がある。隣町が舞鶴町。その境界の通り、突き当たりに九州最大の予備校があった。通称、親不孝通り。大学受験に落ちた子達が予備校に通う道だからそういう名前がついたらしい。
 昼間は予備校生だらけだが、夜になると天神地区からサラリーマン達が流れ込む飲み屋街でもあった。

 僕は相変わらず日雇い労働者。
 作業場で、倒れてきた鉄パイプの下敷きになった。大事には至らなかったが、膝を痛めてしまった。体が資本の日雇い。止むを得ず休養を取った。暇を持て余した僕は、久しぶりに夜の繁華街に出た。

 福岡といえば「中洲」と言う歓楽街が有名だが、そんな所で遊ぶ金は持ち合わせていない。
 僕は親不孝通りを南へ当も無くぶらついていた。
 スーツ姿のサラリーマンが多い。それに合わせて女性の姿もあった、皆、綺麗な身なりをしている。僕はといえば、高校時代に佐世保で買ったGパンと米軍払い下げのジャケット。汚れたコンバースを履いていた。
 ほろ酔い気分のサラリーマン達は、僕を避けるようにすれ違って行った。
 公園が見えてきた。
 自動販売機の前で立ち止まると、Gパンのポケットに手を突っ込んで小銭を漁った。
 
作品名:蒼空の向こう 作家名:つゆかわはじめ