蒼空の向こう
「はい。ありがとうございます」
「うんうん・・・あと、怪我・・・せんごとな。一銭も出らんぞ」
クラクションの音。
手配師のミニバスがやってきた。
運転席の後ろに乗り込む。
車の中が汗と酒とタバコの匂いで充満した。
須崎町の問屋街。
倉庫の2階に部屋を借りていた。
6帖一間。小さな流しがあるだけだ。壁はベニヤ板張りで、小さな窓がひとつ。トイレと洗面は共同。勿論、風呂などついていない。ビルの間にあるため1年中、光は射さない。だが、家賃は8000円と格安だった。
部屋は4つ。 住人は魚市場に勤める兄さん。中洲のスナック嬢。印刷工、そして僕。 住めば都だ。
アパートの前の「食堂ひろ」で胃袋を満たしてから銭湯へ行く。
風呂から戻り、タバコを吸いながらスケッチブックに落書きをする。
落書きしながら同級生の事を想った。
今頃、みんなどうしてるだろうか。クラスメイトの顔が次々にスライドしていく。
美千子の事を想った。
クラスが一緒になった事は無かった。小柄で可愛い子だった。
漆黒の瞳。マッチ棒が乗りそうな睫毛。細くてしなやかな長い髪。ふっくらとした唇。小さな手。細い指。桜貝のような爪。白い肌。そして・・・・・柔らかい乳房。