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つゆかわはじめ
つゆかわはじめ
novelistID. 29805
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蒼空の向こう

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 夏はヘルメットの中がスチームオーブンのようになり、脳みそが沸騰しそうだ。汗が、これでもかという程に吹き上がって、頬を、鼻筋を、首筋を伝い、滴となって地面に落ちていく。
汗は次第に濃度を増し、額を伝って目に入る。
 痛みで涙が出る。
 汗臭くなったタオルで顔を拭う。

 ヘルメットを少しだけ上げ、空気を送り込む。
 機能する事を止めかけた脳みそが甦生する。
 僕は空を見上げた。
 入道雲。
 崎戸島の海と空を想った。

 両親には嘘をついた。
 同級生の叔父が経営するレストラン。そこは住宅街にある食堂だった。
 福岡に着くと同級生の川村が博多駅まで迎えに来てくれた。
 一ヶ月だけ寝床を借りる事になっていた。
 その間、出前の手伝いをする約束だった。
 僕は約束を果し、食と住を確保した。
 一ヵ月後、住む所も見つかり、そこを出た。
 川村の叔父が「がんばれよ」と言って3万円くれた。
 何よりも有難かった。


 雲を見ていると、情けなくも涙が溢れてきた。
 己の心の弱さを呪いながら唇を噛み締めると、顔を拭って作業に戻る。

 作業服は汗で体に張り付き、埃が付着してゴワゴワになる。
 首筋が擦れてヒリヒリする。
 体は自由を奪われ、更に体力を消耗する。
 休憩時間以外は、水を飲む事さえ許可されなかった。
 
作品名:蒼空の向こう 作家名:つゆかわはじめ