蒼空の向こう
夏はヘルメットの中がスチームオーブンのようになり、脳みそが沸騰しそうだ。汗が、これでもかという程に吹き上がって、頬を、鼻筋を、首筋を伝い、滴となって地面に落ちていく。
汗は次第に濃度を増し、額を伝って目に入る。
痛みで涙が出る。
汗臭くなったタオルで顔を拭う。
ヘルメットを少しだけ上げ、空気を送り込む。
機能する事を止めかけた脳みそが甦生する。
僕は空を見上げた。
入道雲。
崎戸島の海と空を想った。
両親には嘘をついた。
同級生の叔父が経営するレストラン。そこは住宅街にある食堂だった。
福岡に着くと同級生の川村が博多駅まで迎えに来てくれた。
一ヶ月だけ寝床を借りる事になっていた。
その間、出前の手伝いをする約束だった。
僕は約束を果し、食と住を確保した。
一ヵ月後、住む所も見つかり、そこを出た。
川村の叔父が「がんばれよ」と言って3万円くれた。
何よりも有難かった。
雲を見ていると、情けなくも涙が溢れてきた。
己の心の弱さを呪いながら唇を噛み締めると、顔を拭って作業に戻る。
作業服は汗で体に張り付き、埃が付着してゴワゴワになる。
首筋が擦れてヒリヒリする。
体は自由を奪われ、更に体力を消耗する。
休憩時間以外は、水を飲む事さえ許可されなかった。