蒼空の向こう
第9章・夢のために
博多区石城町。
川が流れている。
千鳥橋の、その袂。
午前6時。
日雇い達が何処からともなく集まってきた。
6時半。
数台の小型バスが東から、そして西からとやってきた。
手配師と呼ばれる連中の車だ。今なら人材斡旋業と呼ぶのだろうか・・・日雇い労働者を束ねて建築現場へ連れて行き、放り込む。仕事が終わったら日当を直接手渡す。
上前を撥ねる。
殆どの日雇いは、己の足を喰らう蛸の様に、身を削ったお金で安い焼酎を煽り、疲れと欲望を紛らわす。
肉体的にキツイ作業が多いために毎日は働かない。
一日働いて、酒と競艇で散財し、金が無くなったら働く。
漁師も似ている部分がある。気が向いた時にだけ漁に出る。そんな漁師もいる。何の保障もない。代わりに束縛もされない。
ただ、絶対的に違うもの。それは畏敬の念と感謝の気持ち。生前、祖父が良く言っていた言葉がある。
「漁師は誰にも頭ば下げんで良かけんなぁ!ばってん、恵比寿様(えべっさん)は崇めにゃいかんとぞ」
祖父が魚を釣る時の口癖・・・「えべっさん!」・・・そう言いながら仕掛けを海へ放り込む。当然、僕も真似た。「えべっさん!」
海と・・・空と・・・風と・・・太陽が相手。