蒼空の向こう
「お、お父さん!・・それは言わんで!・・・お願いやけん・・・」
「ああ、言わん・・・言わんけど・・あいつ・・」
胸を抉られそうな会話の意味は解っていた。
僕は捨てられた子。
あの、夏の日。小船に乗せられ海原を漂っていた生後間もない僕を、漁に出ていた祖父と父が拾い上げた。そして、我が子として育ててくれた。
その事実は、島の老婆のうっかり話で僕の耳に入った。僕が15歳の時だった。
これには少し話を補足しておく必要がある。
この信じられないような事件が起きる一年前。母は女児を出産している。「夕子」と命名された。
しかし、その命は、不運にも一週間しか持たなかった。
母は狂った。小さな骸を抱きしめて、片時も離さず泣き喚いたという。
「この子は死んでなんかいない、眠っているだけだ」と、父を始め、当時の祖父や祖母、親類縁者の悲しみを深くした。
そんな母を取り押さえるようにして葬儀が行われた・・・・と、かなりの時を経て、叔母が僕に話してくれた。
夕子は俗に言う「白子」だった。先天性白皮症。アルビノである。
動物園で珍種として持て囃されるホワイトタイガーやホワイトスネイクと言えば判りやすいだろう。
話を戻す。
母は慌てて取り繕った。あの婆さんは耄碌しているから・・・と。
誰もが僕を気遣ってくれた。僕はそんな優しさだけで幸せを感じた。真実を言及したこともないし、しようとも思わなかった。