蒼空の向こう
第8章・卒業
昭和50年、3月。
僕は同級生の見送りに忙しかった。
僕の住む崎戸島は、島民が三百人程の小さな漁村である。島民の殆どが漁業に従事していた。
崎戸島には産業と呼べるものが無いため、若者は高校を卒業すると街へ出てしまう。
八年前に、隣の島にあった炭鉱が閉山してから、過疎化の一途を辿っていた。
高校は二つ先の島の「大島」という所にある。
島と島とは橋で繋がっていて、一時間に一本しかないバスが、生活の動脈になっていた。
大島の桟橋から佐世保行きのフェリーが出ている。
高校の同級生数名が、関西、関東に就職していく友人達を見送っていた。
毎年恒例の風景だ。
僕は企業への就職も進学も選ばなかった。
画家なれるとは思わなかった。ただ、純粋に絵の勉強がしたかった。
大学受験の締め切りが終わると、担任の先生がデザイン系の専門学校に行くことを勧めてくれた。せめて、専門学校へ行けと言うのだ。
だが、僕の心にはそのプランは存在していなかった。
両親は猛反対した。
特に父親の反応は凄まじかった。烈火の如く怒りを表した。
そして、とうとう口も聞いてくれなくなった。
ある夜、僕が自室でデッサンをしていると、父が母に八つ当たりしているのが聞こえた。
「はじめのヤツ・・・恩を・・・裏切るつもりか・・・」