蒼空の向こう
弟6章・夢
僕はまた少しだけ大きくなった。
大きくなったといっても、ようやく150センチを超えた程度だ。
入学式では前から二番目のチビだった。
大きめの学生服と、明らかにサイズを間違った帽子は、小さめの頭をすっぽりと覆ってしまう。
小ぶりな体格は、先輩達の強制的な勧誘の的から外されていた。
小学五年生から始めた剣道。
中学でも続けようと思っていた。
だが・・・剣道部の部室をチラッと覗いて止めた。
豚小屋以下だった。
剣を学ぶような場所ではなかった。
剣の修練は一人でも出来る。
余談だが、毎朝、竹刀を1000回振る。
普段は庭でやるが、雨が降る日は納屋で振っていた。
一日も休んだことが無い。日課だった。六年生の時は主将を務めた。
同級生に負けたことは一度も無い。いや、一本も取られた事は無かった。
凛とした空気が好きだった。もちろん当時は「凛」という難しい字など知らない。
だから、豚小屋以下のクラブには到底、入る気がしなかったのだ。
最初の体育の時間は体力測定。握力、背筋、垂直飛び・・・お決まりのコースだ。
海で鍛えていたはずなのに握力は意外にもなかった。だが、垂直飛びではいきなり80センチを超え、先生を唸らせた。この体育の先生が陸上部の顧問だという事は後にわかった。
「梅雨川・・・おまえ、陸上部に入らんか!?」