蒼空の向こう
金賞と書かれた・・・梅雨川一と書かれた・・・崎戸小学校五年生と書かれた、その絵は、僕の「アラカブ」ではなかった。
誰かが加筆した絵だった。
「違う!」という言葉を、喜ぶ家族を尻目に飲み込んだ。
それは家族への配慮というものではなく、怖くなったからだった。
恥ずかしかった。死ぬほど恥ずかしくて死にたくなった。そして、物凄い恐怖感に襲われた。体中が震えた。喉が渇いて焼けるようだった。必死で涙を堪えた。
皆が祝福してくれる。美術館の学芸員達も寄ってきて僕の頭を撫でた。
ただ一人、僕だけが地獄へ突き落とされた気がした。
後日、担任の先生から呼ばれて事実を知った。先生は油絵の心得があった。
その時の言葉は今でも忘れない。
「手を加えたら何とかなると思ったんでね・・・先生が描き足したよ。誰にも言うなよ」
担任の先生は笑いながらそう言い放った。僕は口を噤んだ。それしか無かった。
この日を境に僕は絵を描かなくなった。
中学に入り美術の先生に見初められたが、それでも頑なに筆は握らなかった。
僕が再び筆を握るのは、悪夢の日から七年後だ。
「アラカブ」は海岸で燃やした。だが、表彰状は今でも実家の仏間に掛けられている。