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つゆかわはじめ
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novelistID. 29805
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蒼空の向こう

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 金賞と書かれた・・・梅雨川一と書かれた・・・崎戸小学校五年生と書かれた、その絵は、僕の「アラカブ」ではなかった。

 誰かが加筆した絵だった。
 「違う!」という言葉を、喜ぶ家族を尻目に飲み込んだ。
 それは家族への配慮というものではなく、怖くなったからだった。
恥ずかしかった。死ぬほど恥ずかしくて死にたくなった。そして、物凄い恐怖感に襲われた。体中が震えた。喉が渇いて焼けるようだった。必死で涙を堪えた。

 皆が祝福してくれる。美術館の学芸員達も寄ってきて僕の頭を撫でた。
 ただ一人、僕だけが地獄へ突き落とされた気がした。

 後日、担任の先生から呼ばれて事実を知った。先生は油絵の心得があった。
 その時の言葉は今でも忘れない。

「手を加えたら何とかなると思ったんでね・・・先生が描き足したよ。誰にも言うなよ」

 担任の先生は笑いながらそう言い放った。僕は口を噤んだ。それしか無かった。
この日を境に僕は絵を描かなくなった。
 中学に入り美術の先生に見初められたが、それでも頑なに筆は握らなかった。

 僕が再び筆を握るのは、悪夢の日から七年後だ。

 「アラカブ」は海岸で燃やした。だが、表彰状は今でも実家の仏間に掛けられている。
 
作品名:蒼空の向こう 作家名:つゆかわはじめ