蒼空の向こう
副賞は初めて見る色鉛筆のセット。そして、男の子には堪らないウルトラセブンのスケッチブックだった。
僕は納屋へと走り、祖父に報告した。祖父が喜んでくれた事は言うまでもない。
我が家は天才画家の誕生に色めき立った。
僕は小学校でもヒーローになった。
家族で展覧会を見に行くことになり、長崎へ向かった。
両親と僕。そして、四歳年上の兄と祖父の五人。双子の妹はまだ保育園児だったので祖母が預かることになった。
当時、長崎市内まで行くには半日を要した。
まず、船で隣の島へ渡り、バスで蛎の浦というとこまで行く。四〇分程だったと思う。そこからフェリーに乗る。一日に一便しかない(なかったと思う)。二時間かけて佐世保に到着。そこから、バスか列車で長崎まで行くのだ。
街に出るのは久しぶりだ。それだけで興奮して鼻血を出し、皆に笑われた。見るもの全てが新鮮で目眩がしそうだった。
最悪だったのが、僕が船以外の乗り物に弱い事だった。まず、バスの中で吐いた。フェリーでは復活し、甲板を走り回って親を困らせた。列車では「トラベルミン」という酔い止めの薬を通常の2倍飲まされ、無理やり眠らされた。野生動物の移送のようだ。
長崎市内。出島の側に県立の美術館がある。どのブースで開催されたのか、記憶から消え去っているが、その展覧会は開催されていた。
「金賞」題名:アラカブ(水彩画) なまえ:梅雨川一(崎戸小学校5年生)(※アラカブとはカサゴ科の魚の名前)
家族はその絵の前に立った。名前の下には金色の短冊が貼られてあった。皆、嬉しそうだった。だが、僕は言葉を無くして立ち竦んだ。