蒼空の向こう
第5章・汚された勲章
僕はその日も走っていた。
重いランドセルから教科書が飛び出しそうだ。
胸に一枚の紙切れを抱いていた。
家に飛び込んだ。
「母さん!母さんっ・・・いるっ!」
「おるよ〜・・・どげんしたとね?」
「はい!・・・これ!」
僕は母に紙切れを差し出した。
母はそれをまじまじと見つめながら微笑んだ。
僕はじれったかった。母はいつでもそうなのだが、感情の抑揚が極めて緩やかで、ワンテンポもツーテンポも遅れる。母が慌てふためいたところを見たことが無い。やはり、祖父に似たのだろうか・・・。
「そうね・・・そうね・・・金賞ば取ったとね。すごかね〜。そうね〜〜。」
「うん」
「はよう、じいちゃんにも見せに行ってこんね」
「うん!」
絵画コンクール金賞。
長崎県展の一環として公募された絵画コンクール。全校生徒が出品していた。そのコンクールで金賞を獲った。朝礼で表彰された。お立ち台にあがり、授賞式があった。