蒼空の向こう
伝馬船に飛び乗って船底の戸板を開いた。凝縮した潮の香りが鼻腔を刺激する。フナムシがいたので指で弾き飛ばした。弾き飛ばされたフナムシは海に落ちたが、こっち向かって泳いで来る。どうせまた上がってきて伝馬船で暮らすのだろう。放っておいた。
光を遮った生けすには十匹ほどのイセエビが静かに蠢いていた。僕は最大級のイセエビと格闘した。生けすから掴み出されたイセエビは「ギイッ!・・・ギィ!」と鳴きながら暴れる。落としたら大変だ。
二匹のイセエビを素早く網袋に移して口を絞めた。
船から慎重に飛び降りると、家へ一目散に走る。ランドセルに用はない。
今日も聞こえる、島のおばさん達の声援。
「はじめ〜〜!今日はごちそうやなぁ!・・・ほらっ!もっと早く走れんとかぁ〜〜!」