蒼空の向こう
炭鉱側から斡旋された職場は、その殆どが関西、東海、関東に集中しており、親戚の殆どが関西へ新天地を求めた。僕の家族と祖父母だけが島に残った。
昭和43年・・・日本一の人口密度を誇った崎戸町は凄まじい速さで過疎の町へと変貌を遂げた。4つあった小学校は1つに統合。100年を超える歴史を持った島の小学校はその歴史を閉じた。
炭鉱閉山、小学校の合併。これを機に僕は船から降ろされた。朝の漁に行かせてもらえなくなったのだ。
父親の「命令」だった。
理由は一つ・・・「勉強しろ」
「してる!」喉まで出かけて、飲み込んだ。
そう言われる事は判っていた。だから勉強はちゃんとやっていた。本を船に持ち込み、漁場への行き帰りに読んでいた。だから僕の教科書は魚の鱗や何やらで、魚臭かった。祖父だけがそれを知っていた。
僕は再び無言の抗議に出た。だが、これも無駄な抵抗と終わる。
季節は夏。
何処までも蒼い海と空。
聳え立って動かない彼方の入道雲。
車も走っていなから騒音も無い。
島に蝉時雨。
夏を謳歌するセミの鳴き声だけが、島中に響き渡っていた。
あすから夏休みだ。
宿題さえやれば漁に連れて行って貰える事になっていた。
祖父はいつも納屋で漁具の繕いをしている。
学校から帰って覗いてみた。家は後回しだ。