蒼空の向こう
第4章・激動の時代
僕は機嫌が悪い。
何日も口をきかなかった。
僕が口をきかない理由は、祖父から母へ報告済みで、親からは放っておかれた。
父は隣の島にある町役場に務めていた。役場が休みの時だけ漁を手伝う。(因みに話題の祖父は母の父親。父方の祖父は軍人で、太平洋戦争で戦死している)
父は夕刻、帰宅すると何やら僕の事を母と話していたが、最後には鼻で笑うだけだった。
僕の最大級の抗議は何の効果も出せず、見事に砕け散った。
口をきかなくても漁にはついて行った。
祖父はいつもの祖父だった。寡黙だが笑顔を絶やさない。漁のイロハを伝授してくれた。
「漁師は継がせない」・・・そう言われた事が嘘のようで、網の繕い方、時化たときの対処、大きな波を超えるときの舵のとり方・・・僕の体が少しずつ大きくなるにしたがって、教科が肉体的な事へと変わっていった。
僕は少しだけ大きくなった。
10歳。街に、島に・・・未曾有の大波乱が起きた。炭鉱が閉山したのだ。
僕が住む島は漁業を生業にする者が多かったが、隣の島の住人は何かにつけて炭鉱に関わって暮らしていた。炭鉱の閉山で殆どの人が職を無くした。
地元には産業と呼べるものが少ない。幸いにも日本は高度成長期を迎えていた。仕事はいくらでもあった。漁師という、きつくて、保障の無い仕事には誰も振り向かずに島を捨てた。勿論、断腸の想いだったという事は解っている。