蒼空の向こう
漁師の朝は早い。季節によって異なるが、春の時期なら午前四時には船を出している。
僕は毎朝、祖父と漁に出た。そして、漁のイロハをしっかりと叩き込まれていった。
機械船が普及する中、祖父は頑なに手漕ぎの木造船だった。
必要以上には獲らない。自然への畏敬の念と感謝を忘れない。
僕はそういった漁師の心構えを叩き込まれた。
随分と後になってからの事だが、文豪ヘミングウェイの「老人と海」という本と出会った。
その物語に出てくる主人公は、正しく僕が神と崇める祖父の姿だった。
話を戻そう。漁には毎日出る。刺し網漁だ。
子供の僕にとっては重労働だったが、網を引き上げているうちに掛かった魚が見えてくると、腰の痛みも忘れて興奮した。
その日は大漁だった。大漁と言ってもたかが知れているのだが、とに角大漁だった
意気揚々と帰路に着く。祖父が僕に聞いた。
「はじめは漁師になりたいのか!?」
「うんっ!」
「そうか・・・」
「船を買う!」
「そうか・・・お前はもう、一人前の漁師たい!」
僕は天にも昇る思いだった。
尊敬する祖父が認めてくれた。これ以上の褒めことばはないだろう。