蒼空の向こう
僕は港に泊めてある伝馬船へ走っていく。石の階段を駆け下りると、義経顔負けの身軽さで伝馬船に飛び移った。
船底が生けすになっている。その中から小ぶりのカワハギを3匹、網ですくうと後頭部に鉤を刺して締めた。
そうすることで魚の血流が止まり、鮮度が保たれるのだ。
カワハギ3匹を籠に入れ、家へと走る。ひたすら走る。いつも全力疾走だった。
そんな僕に、島のおばさんたちは声援を送った。
「はじめ〜〜〜もっと、早う走れんとか〜〜!」
僕はそれが悔しくて更にスピードを上げた。家に着く頃には肩で息をしている。
「母さん!・・・かあさ〜〜ん!」
母屋から母が出てきた。
「今日は何ね?」
「カワハギ!」
「そうね・・・どれ・・・・ちょっと小さかねぇ」
「大きいとは、売るけん・・・ダメ」
「そうやね・・・これで充分やね」
母親がそう言うか言わないうちに、僕は祖父の許へ全力疾走していた。
島のオバサンたちが応援する。
「はじめ〜〜〜!もっと、早う・・・走らんかぁ〜〜〜!」