蒼空の向こう
「ええ、店の子がそう言っていました」
「そうですか・・・」
「先生!・・・また、飲みに行きましょうね」
「あ・・・はい」
久しぶりに、麻美の名前を耳にした。
東京に行った・・・僕には、大阪の叔母の所に、身を寄せると言った。
何れが真実でも、もう、会う事は無いだろう。
麻美との事は、昨日の事の様に覚えている。
その美しい姿。あの、吸い付くような肌の感触。柔らかい唇。甘い吐息。
シャネルNo5.の匂い。
出来るなら、もう一度、五感で麻美を感じたいと思った。
僕は、あの時、何故、麻美を捉まえなかったのか・・・。喉もとまで出かけた言葉を、何故、飲み込んでしまったのか・・・。キレイ事など言わずに、ただ、抱きしめれば良かったのに・・・。どこかで・・・後悔している自分がいた。
しかし、一方では、新しい恋など無用だと言う、冷めた自分がいるのも事実だった。片方で、女に恋焦がれ、もう片方ではそんな男をあざ笑う自分がいた。ありきたりの言葉だが・・・あとの祭り。
僕は、悶々とした気持ちを払拭するため、仕事に専念することにした。
本屋へ行き、今まで見向きもしなかった、ティーンエイジャー・・・特にローティーン向けの雑誌を買い漁って読み、街をぶらつき、コンサートへも行った。
コンサートでは、僕の年齢が33歳という事もあって、よくスタッフと間違われ失笑した。



