蒼空の向こう
麻美は、身を乗り出すようにして、細い顎を突き出した。
僕は、そっと唇を重ねた。麻美は、僕の言った意味を理解していた。
驚く様子も無く、僕に応えた。
ほんの数秒。人生の10億分の一。麻美が、確かに、そこに居た。
僕は、夢から醒めた。そう思うようにした。麻美が電話をしてくる事はないだろう。そんな気がした。
僕は、新世界の仕事に集中した。と言っても、直ぐに仕事があった訳ではない。僕は全くの新人だ。先ずは、業界の勉強からしなくてはならなかった。
H社は、福岡市の中心部である天神に、アンテナショップを持っていた。
僕は、夕方の時間帯を狙い、そのアンテナショップの視察に出向いた。
地下駐車場に車を停め、エレベーターに乗り込んだ。
有名なファッションビルの5階。5坪程の小さなアンテナショップには、商品が所狭しと、並んでいる。
子供達がひしめいていた。皆、ローティーンの女の子だ。僕はそ知らぬ顔で、様子を窺った。
アイドルの生写真が、飛ぶように売れている。生写真とは、プロダクションが撮影、プリントしたものではなく、カメラ小僧と呼ばれるアイドルの追っかけ達が撮った、素人写真だ。だが、素人と言って侮ってはいけない。
その中には爆発的に売れるショットがあるのだ。追っかけならではの視点から撮った写真は、ファンの心に響くのかもしれない。プロのカメラマンも及ばない、執念めいたものを感じる。
そんなカメラ小僧が撮った写真を、業者が、フィルムごと買い上げる。
それを、プリントして、H社のような雑玩具の問屋に卸す仕組みだ。そして、末端の小売店へと流れていく。



