神様ソウル3
翌日、昨日の晩の睡眠時間を課長とレイカの監視で全て犠牲にした私は、完全に疲弊しきっていた。一時間目をなんとか乗り切り、机に顔をべったりくっつけて二時間目が始まるまでの短い時間を体力の回復にあてていた。
「茅ヶ崎さん」
「…………」
「茅ヶ崎さん?大丈夫?」
「……は、はい?」
今だに茅ヶ崎優花という名前に慣れない。顔を上げるとクラスメイトの麻倉まゆみが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「どうしたの?顔色悪いよ?」
「え、そう?」
「うん。なんか男子も心配してたし」
麻倉が指差した先を見る。何人かの男子が教室の隅に集まってこっちを見てひそひそと話し合っていた。
「……何あれ」
「茅ヶ崎さんのこと好きって男子多いから」
確かにこの学校で勉強するようになってから、休み時間に入る度に男子から話かけられている気がする。寄り代にするのならルックスのいい個体にした方が便利だろうと思ってこの体を選んだが、あまりいいことばかりでもないみたいだ。
「茅ヶ崎さんは好きな人とかいないの?」
「わたし?」
「うん。男子と話す機会多いし一人くらい気になる人がいてもおかしくないかなって」
「といってもまだ転校してきて間もないしなぁ……」
「……里見くんとかは?」
「え、里見くん?」
「うん。結構仲いいみたいだから」
「あーあれは別にそういうのじゃなくてね……」
私は言葉を濁した。自分の素性も課長のそばにいる理由もこちらの世界の人間には話すことができないのだ。
「ふーん?」
麻倉は少し不満げに首を傾げた。
「そういう麻倉さんはどうなの?」
「私はそんな……そろそろ大学受験のことも考えなきゃだし、恋愛なんかしてる場合じゃ……」
「ってことは好きな人はいるんだ?」
「え……うん、まぁ……」
麻倉は顔を真っ赤にして小さく頷いた。かわいい。人間の女の子って感じだ。
「そうだ。麻倉さんさ、キスってしたことある?」
「キス!?ないよ!ないない!ある訳ない!」
真っ赤な顔のままぶんぶんと首を横に振る。
「したことあるんならどんな感じなのか教えてもらおうと思ったんだけど」
「どうなんだろうね。いつかする時が来るんだろうけど」
「うん……」
一体どんな感じなんだろう。課長を治すためにはキスは必ずしなくてはならない。なるべく早く、必ず。
「どうしたの茅ヶ崎さん?顔赤いよ?」
「え、なんでもないよ!?なんでもない!!」
大体、たかがキス一つに何でこんな思い悩ませられないといけないのだ。自分の抱いている感情に違和感を感じる。