神様ソウル3
「ただいまー」
大きな声で帰宅したことを告げるが返事はない。母はまだ仕事から帰って来ていないようだ。
「んー……と。お嬢ちゃん、名前はなんていうの?」
「……レイカ」
少女が玄関先に座り込んで靴下を脱ぎながら答える。
「じゃあレイカ、とりあえずお風呂に入ろうか。服も乾かしたいし」
「お風呂って……お兄ちゃんも一緒に入るの?」
「え……?」
「あの、お兄ちゃんの服も濡れてるし……」
改めてレイカの体を見る。濡れて張り付いたワンピースが起伏の少ないなだらかな体のラインが強調されている。
「お兄ちゃん……?」
レイカが胸の前で手を交差して一歩退く。
「ご、ごめん。あー、僕はあとで入るから大丈夫だよ。風邪引くといけないし急いで入っておいで。脱いだ服は洗濯機に入れておいて。着替えは今持っていくから」
「うん。わかった」
脱衣所にレイカを押し込んで、自分の部屋に戻って服を着替える。
ものにも触れることができるようだし幽霊の類の心配はないみたいだ。雨が止んで服が乾いたら交番に連れていって警察に任せよう。
「お兄ちゃーん」
着替えを終えてしばらくすると風呂場の方からレイカが呼んでいるのが聞こえた。
「はーい」
返事をしながら部屋を出る。脱衣所のドアの隙間からレイカが顔を出していた。
「あの、着替え……」
「あぁ忘れてた。今準備するよ」
といっても、この家にある女ものの服といえば母親のものだけだ。しかし母親のタンスを漁るのはさすがに気が進まない。仕方ないので僕の部屋着を使ってもらうことにする。
「レイカ?持ってきたよ」
「ありがとー」
開いたドアから出てきた手のひらに着替えを乗っける。
程なくして、僕のスウェットを着たレイカが脱衣所から出てきた。しかし何故か落ち着かない様子で足をもじもじさせている。
「どうしたの?」
「えと、下着も濡れてたから直接着たんだけど、なんか落ち着かなくて。サイズもちょっと大きくてスースーするし」
「ごめんね、こんなのしかなくて。すぐに乾かすから」
「あ、別に嫌とかそういうんじゃなくて。……こちらこそこんな世話になっちゃってごめんなさい」
「いいよいいよ。今洗濯機回すから待ってて」
「うん」
一時間半もすれば乾燥まで終わるだろう。しかし時刻はもう九時近い。雨も止む気配がない。この時間帯に彼女を交番に届けて今日のうちに家に帰ることはできるのか。第一彼女を家に帰しても問題はないのだろうか。