神様ソウル3
「お腹空きました……ご飯はまだなんですか……?」
時刻は20時を回るかどうかというところ。課長が買い物から帰ってきてから一時間近くが経過していた。
「もうちょっと」
「はぁ……まったく人間の体は不便でしょうがない。定期的にエネルギーを摂取しないとまともに動くこともできないなんて」
私はリビングのソファにだらりともたれ掛かった状態でそう言った。体に力が入らなくてまともな姿勢で座るのも億劫だ。ちなみにレイカは私の隣で同じようにぐったりと脱力している。しばらく動きが見られないから眠っているのかもしれない。
「天界人だって食事くらいするだろ?」
課長は火加減と鍋の中身を注意深く見比べつつ私と会話を交わしていた。
「そりゃしますけど絶対に必要なものではないですよ。食べなくても何も問題はないし、空腹を感じることもありません。食べたい人だけ食べるって感じですかね」
「へー。なんか勿体ないな」
「仕事をこなして最低限の生活さえできればいい、という考えの人が多いんですよ。全体的に感情の起伏が少ないし」
「テミスもか?」
「私は何故だかわからないけどその中にいるのをちょっと窮屈に感じてて、周りの人からは少し変わり者という認識をされていたように思います。課長も似たような思いを抱いていたようでした」
「課長はそれで天界を飛び出してこっちの世界にやってきたんだな」
「はい。私も人間界に来てかなり経ちますが、天界よりこっちの方が落ち着くんですよね。不思議です」
「ふーん……。なぁ、俺の中にいるその課長をさ、どうにかコミュニケーションを取れるような状態に持っていくことはできないのか?」
「無理ですねそれは。魂の方から体に関与するのは不可能だったはずです、いくつかの例外を除いては」
「例外?」
「里見ヒロトの体が死を迎えた時とかですね」
あーなるほど、とキッチンの方で返事が聞こえた。私はもう首を課長の方に向けるのも面倒になり、天井の木目を見つめたままで話を続けていた。
「ただ、体が見聞きしたことは魂に記憶されてるわけだから、課長はこのやり取りを全て見聞きしていることになりますね。それがちょっと癪ですね。プラス空腹で更に怒り倍増です」
「はいはい。飯なら今持ってくから」
「できましたか!!!!!??」
全力で体を起こすと、課長が大きめの鍋を机の上に慎重に置いているところだった。中身はシチュー。熱気がもわもわと立ち上っている。
「うおー!!!!」
「具に火が通ってないかもしれないけど文句言うなよ」
「いただきまーす」
「話を聞かんか。ほらぁーレイカ。ご飯だよー?」
レイカと課長が接近していることも構わず夢中でシチューをかきこんだ。