神様ソウル3
だらしない、というのが彼に対して抱いた最初の印象だ。スーツは着ているもののシワだらけで、ヒゲも剃られていなくて、およそ人の上に立つような地位の者の身だしなみとは思えなかった。
「すいません寝坊しました」 課長と思われるその男は部屋に入るなりさっきの私に負けない位の勢いで秘書の女性に頭を下げた。
「もういい加減にして下さい。今月に入って四回目ですよ」
「返す言葉もありません。本当にすいませんでした」
「来たからといって真面目に仕事してくれるわけでもないし。もう私を課長と呼んでも差し支えないくらいですよ」
「これからは真面目に仕事します」
「それいつも言ってません?まぁ、とりあえず課長にお客さんが来てますんでちゃんと相手してあげて下さい」
「お客さん?」
課長は椅子に座っている私の姿に気づいて、私と向かい合わせになっている椅子に座った。
「どちらの方です?」
「えっと、今日からこちらの部署でお世話になるB-253768番です」
「あーそうだ。そんな約束もしてた。待たせてしまって申し訳ない」
「あ、いえ、実は私も遅刻してしまって……さっき着いたばかりなんです」
「お、そうなのか。ラッキーラッキー。メティス、この子の資料はどこにあったっけ」
「机の上に置いてありましたよ。ちゃんと管理しておいて下さい」
秘書はさっき眺めていた紙の束を課長に渡した。
「あの、メティスって?」
「こいつのあだ名だよ。E-35482番って長くて呼びづらいでしょ?だから呼びやすいように俺がつけたんだ」
あだ名……なんだか人間みたいだ。
「人間界の女神の名前から取ったそうです」
「変わってますね。あだ名なんて」
天界ではあだ名をつけるという文化はない。管理ナンバーで呼びあうのが普通だ。
「まぁ俺が好きでやってることだから気にしなくていいよ」 課長は資料をめくりながら言った。
「今日の予定は職場の見学と仕事内容の説明ってなってるわけだけど……君、うちの部署がどんなことしてるかは知ってる?」
「はい。運命管理課、人間界の者達の運命の管理、監視が主な仕事で人間界に関連する部署の中では最も大きく、最も重要な場所です」
メティスが大きく一度頷いた。
「うん。間違いない。それで、この部署の者は監視役として人間界に定住するかこっちで事務的な仕事をするか選ぶことになるんだけど……そうだな」
課長はしばらく黙って何かを考え、
「メティス、この子君の下に付かせてもいいかな」
「え、秘書にするってことですか?課長が決めたことなら構いませんが……」
「うん。じゃそれでいこう。B-253768番、だっけ?それでいいかい?」
「あ、はい。よろしくお願いします」