神様ソウル3
「はっ」
清々しい目覚め。時間を確認しようと顔を上げる。しかし枕元にあるはずの目覚ましが見当たらない。ベッドから降りると電池の外れた目覚ましが床に転がっていた。取り上げて時間を見る。七時四十分。てことは少なくとも今はそれよりも遅い時間ってことだ。
私は全速力で布団の中から飛び出した。
玄関に置いてあった腕時計を身につけて時間を確認すると、もうすぐ八時を回ろうかというところだった。大遅刻だ。
今日は新しい部署に移動して初めての出勤。人間達の運命の管理が主な仕事内容だ。今日はそこの責任者に挨拶して職場の見学をする予定だったんだけど……どうしてこういう日に限って。
初日から一時間以上の遅刻。上司がどういう人なのかはわからないが、これだけ遅れて出勤して怒られないわけがない。今から職場に着いた後のことを考えて少し憂鬱になるが、とにかく今は急ぐことしかできない。
職場に到着。受付に目的を告げて取り次いで貰うと「部屋で待っているので直接向かってください」とのこと。四階の上司の部屋を目指して階段を駆け登る。寝癖で乱れた髪を撫で付け、息を整え、静かに扉をノックする。
「はい、どうぞ」
扉の向こうから落ち着いた雰囲気の女性が返事をした。
「今日からお世話になります、B-253768番と申します。あの、八時に約束をしていたんですが遅刻してしまって……」
扉を開けて部屋に入り頭を下げて一息で謝罪の言葉を告げる。
「あぁ。そういえばそんな予定が入っていたわね」
「ほんっとーにすみません。初日からこんな失態を……」
「まぁまぁ、まずは落ち着いてください。ほらそこに座って」
「はい……」
顔を上げると綺麗にまっすぐと背筋の伸びた長身の女性が私の前で笑みを浮かべていた。
「えっと、B-253768番さんでしたっけ」
向かい合って椅子に腰掛ける。長身の女性は机の上に置かれた紙の束を取り上げて、それを読み流しながら言った。
「はい、今日からお世話になる……」
「私は秘書のE-35482番。よろしくね」
秘書の女性は優雅な動作でお辞儀をした。
「まぁ遅刻したことは置いておくとして。急いで来てもらって申し訳ないけど実はまだ来てないのよね、課長」
「え、何かあったんですか」 「そうだったらいいんだけど、多分寝坊ね。最近増えてて困ってるのよ。こんなんじゃ部下に示しがつかないわよね」
このレベルの遅刻を日常的にしてるってろくな奴じゃないな……と思ったがそのレベルの遅刻をした自分が言えることではなかったので「はぁ」と曖昧に相槌を打って聞き流した。
その時、にわかに部屋の外が騒がしくなった。
「来たみたいね。ちょうどいいわ」
「どうしてわかるんです?」
「オフィスの方が騒がしくなったからよ。あなたはオフィスには寄らないで直接来たんだったわね。とにかく、もう数分も経たないうちに課長がこの部屋にやってくるはずよ」
その言葉通り、部屋の外のざわつきが徐々にこの部屋に近づいてきて、その直後部屋の扉が壁に打ち付けられるくらいの勢いで開き、一人の男が現れた。