美しいお父さん
だから、ことあるたびに末娘に暴力を振るった。憎かったのだ。
ところが、いつの日からか、おれは昔の自分そっくりにメーキャップし、末娘に近づくようになっていた。
末娘は得体の知れない醜い男に、いつも笑顔を向けた。
末娘は良い子だった。ひどい父親を心から愛し、愛されることを願っていた。
そして、怪人をも愛してくれた。
それこそが、おれが求めていたものだったのだ。
おれは、美しくなくても、いや、醜いからこそ、おれは愛してほしかった。
何の飾りもないありのままの自分で、みんなに愛されたかった。おれのそのままを、みんなに受け入れてほしかっただけなのに」
お父さんは、ぽろぽろ涙をこぼした。焼けただれた肌にしみて悲鳴を上げた。
かわいそうなお父さん。大好きなお父さん。
お父さんは、あたしの頬をさすった。
「おまえは美しくなりたいと言っていたね。そうすればおれに愛されるからと。
しかし、おれの二の舞にはならないでくれ。お願いだ、ありのままのおまえでいてほしい。
ありのままに生き、うそいつわりのない姿で愛されてくれ。
かつてのおれが、そう望んだように」
お父さんはそう言い残すと、燃え盛る屋敷へ戻り、二度と帰ってこなかった。
あたしは、お父さんにとって、「氷のお墓に眠る昔の身体」だったのだ。
あのアニメの女の人のように、なつかしくて、せつなくて、お父さんはあたしに会いに来ていた。
そして、あたしを死出の旅立ちへ連れていかずに、生きろ、と言ってくれたのだ。
月日がたち、あたしは父親譲りの演技力と不細工ながらも特徴的な顔がうけて、女優として成功した。
父の願い通り、ありのままの姿を認めてもらえてのことだが、ときには自分を偽って見せることもある。
しかし、それは役者でなくとも、人間だれしもがしていることなのだから、抵抗もない。
ただ、演じた役を誉めてくれる人の瞳に、自分ではない人間が映っていることを見出すたび、脅えている自分を感じることが、ときどきある。
<おわり>