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「舞台裏の仲間たち」(11)

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 立ち止まって、座長がハイライトを勧めてくれました。
「労働者の煙草だよ」と言いつつ、座長は
この辛みの強い煙草を好んで吸い続けていました。


 「ちずると、離婚に至ったことは、
 もうご存じだとは思います。
 この件に関しては、私たちは完全に合意をして、
 お互いを尊重し合ったうえで、ついに別れることになりました。



  ご承知のように私は、
 古いしきたりをもつ農家の出身です。
 跡取りの長男として、その宿命を背負って生まれました。
 実家は、戦後の農地改革で大半の所有農地を失ったとはいえ、
 いまだに、多くの田畑を所有している、
 この一帯での大農家です。
 父との約束で、俺が元気で有る限りは外で自由に働いていても良いが
 いざとなったら、我が家の跡を継いでくれと言うのが、
 私が家を出る時の、ごく大まかな口約束でした。


  ゆくすえは農家の跡をとらせることになりますが、
 この時代に、若い者を最初から農業に縛りつけることも
 無いだろうというのが、父のいつもの持論です。
 しかし、家を継ぐということは、
 その次の世代も作れという意味になるのです。
 家の存続のために、継承者である
 長男から長男へと、農家の世襲は続きます。


  土地や農地というものは、実にやっかいです。
 それが、膨大で有ればあれほど無事に次の世代に受け継がせ、
 土地や財産を守り抜かなければなりません。
 それゆえにまた、土地に縛られるということにもなるのですが・・・。
 それもまた、どうにもならない話です、
 田舎ならではの、農家の運命です。


  農家の嫁は、長男を産まなければなりません。
 実に、理不尽な話です。
 この時代にたいへんに封建的なしきたりですがで、いまでも農村地方には
 こんな考え方が大手を振って、当たり前のこととして
 連綿と生き続けているのです。」




 座長が立ち停まりました。



 「ちずるはそのことを、
 人一倍、よく承知をしていました。
 しかしこの10年。
 残念ながら私たちに子供は恵まれませんでした。
 10年も、一緒に暮せたのだからもう十分でしょうと言いだしたのは
 実は、ちずるのほうからです。
 あなたは、もう肩の荷物を下ろしてくださいと、そう言い切りました。
 私自身はとうに子供のことはあきらめていたし、
 父親にも、もう農業はあきらめてくれと言うつもりでいました。
 しかしそれでは、あなたが故郷にも、
 親の元にも戻れなくなる、
 嫁ぐ身である女なら、どこでも生きられるけど、
 農家の長男とあれば、そうもいきません。
 10年間あなたと過ごせただけで、もう充分ですから、
 どうぞこの辺で新しい生き方を見つけてくださいと、
 ちずるとの離婚話が成立をしました。


  ちずるは、私には充分すぎた女です。
 家の重さや田舎のしきたりについては、私よりも当のちずるのほうが
 神経的に、ずいぶんと参っていたようでした。
 しかし・・・残念ながらこの件に関しては、
 私自身は何ひとつとして、ちずるの力になれませんでした。
 問題を抱えたままで、なにも解決することができませんでした。
 それほどまでに、また、
 ちずるの決意は固かった。」