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夢と少女と旅日記 第1話-1

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 L.E.1012年 5月1日

 全くもって面倒なことになりやがりました。こうして日記に記すのも面倒ですが、万が一の際には私の後釜を用意しなきゃならないって話なんで、一応未来の後輩へ向けたメッセージってことで書き記そうと思います。もしこれを読む人がいるのなら、私の二の舞にならないように、精々頑張ってください。
 まあ、私は死ぬ気なんて更々ありませんけどねえ。100まで生きるのが人生のモットーですので。まだ17年しか生きてないのに、そう簡単にくたばってたまるかってんです。14歳まではろくな人生じゃありませんでしたしね。やー、ホントさっさとあの孤児院から出て行って正解でした。
 っと、まず最初に言っておきますが、もしあなたが怪しげな妖精の要請を受けている最中で、まだ契約は未成立だってんなら、きっぱりと断ったほうが身のためです。どうせろくな目に遭いませんから。いや、マジで指詰めることになっても知りませんよ?
 あ、それと、私が死んだあとのことなんか知ったこっちゃないですし、人に見られて恥ずかしいような人生を送ってきたつもりはありませんので、プライバシー問題なんて気にしないです。万が一の際には、この日記を私の遺書としようかと思うくらいです。
 さてさて、まえがきはこれくらいにして、順を追って説明しますか。私も小説のまえがきなんてろくすっぽ読みませんから。あ、でも、あとがきは小説の要点を上手くまとめてくれていることがあるので、本編を読む前にあとがきから読み始めるってことは、……って、話が横道に逸れすぎですね。お喋りするのは大好きなんで、ついつい話が長くなってしまうんですよね、私。反省、反省。
 まあ、今日という日は大変な一日でしたけど、話としてまとめるとなると至極単純かと思います。旅商人である私は愛馬パトリシアに乗って全国巡りをしているんですが、今朝、道すがらの地面に何か光るものを見つけたことから、平穏な日常は一変しました。ちなみに、便宜上愛馬って言いましたが、パトちゃんは本当は馬じゃなくってユニコーンです。
 パトちゃんが私の愛馬になった経緯も完全に横道なんで置いておきましょう。過去の日記には書いてあるので、そちらを参照していただいてもいいですが、気が向いたらまた後日書くことに致します。
 で、光るものって言ったら、高価なものじゃないですか。金銀財宝、なんでもござれです。ただの硬貨だとしても、ただで手に入るならうはうはの儲け物ですよ。落とし主のこととか法律とか自警団とかは知ったこっちゃないです。こんなのは間抜けな落とし主が悪いに決まってます。なんでわざわざ自警団に届けなきゃならないんですか。
 なーんて思いつつ、どうせガラスの破片か何かだろうと思う冷静な自分もいたわけですが、パトちゃんから降りて観察してみてびっくり仰天しましたよ。だって、本当に綺麗なエメラルドのついた指輪だったんですから。安く見積もっても30万G(ギー)はするんじゃないでしょうか。私だったら、その5割増しくらいの値段で売っちゃいますけど。
 しかし、それにしても綺麗な指輪です。私だって女ですから、こんな指輪が結婚指輪だったらとか妄想しちゃいます。だから、妄想が暴走しちゃって、売っちゃう前に試しに一回つけてみようと思うのは、極々自然な思考の流れなわけです。
 指輪を右手の薬指に嵌めてみてうっとりと眺めていると、背中の方から「あのー、すみません」というか細い声が聞こえてきました。しかし、きょろきょろと辺りを見回してみても、どこにも人の姿はありません。
 ――なんだ、幻聴か。そう思い、指輪にうっとりする作業に戻ろうとすると、目の前にぬっと小さい人影が飛び出してきました。私としたことがびっくりしてしまって、少しうしろに仰け反ってしまいました。
「あ・の・う! 一つお聞きしたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?」と小さな人影は言いました。よく見ると、それは綺麗な緑の髪をした妖精でした。大きさで言ったら、ちょうど私の手のひらくらいでしょうか。非常に小さいことと背中の羽を除けば、どこにでもいる女の子のように見えました。
 私も妖精を見るのは初めてでしたが、昔、写真で見たことがあったので、すぐに妖精だと分かりました。最初は、まさかこんなところに妖精がいるとは思わなかったので、うっかり見落としてしまったようです。
 しかし、妖精なんて、もはや絶滅危惧種ですからね。私もなんとも珍しい出会いをしたものです。天界には、まだそれなりに数がいるとは聞いていますが、地上の妖精なんて国の行く末を真剣に考える政治家くらい数が少ないんじゃないでしょうか。――まあ、それは地上よりも天界の方が住みやすいという理由も大きく影響してるんでしょうけど。っと、閑話休題、閑話休題。
「驚かせてしまってすみません」と妖精はぺこりと頭を下げました。
 私は、こいつを生け捕りにしたらいくらくらいで売れるのかなという皮算用を中止して、「気にしてませんから大丈夫ですよ」と応えました。
「突然ですけど、私、この辺りで指輪を落としてしまったんです。一生懸命探しているんですけど、どうしても見つからなくて……。それで、たまたまあなたの姿が見えたから、もしかしたらどこかで指輪を見かけてないかなって思って。それで声をおかけしたんです」と妖精は言いました。
 言わずもがな、妖精の言う指輪とは、私が指に嵌めたエメラルドの指輪のことだと思いましたが、私は咄嗟に右手を背中に回し、「いえ、全く知りませんね」と答えてしまいました。それほどまでに、この指輪を手放すのは惜しいと思ったんです。ちょっと可哀想ですが、ここはすっ呆けてさっさと退散しちゃおうかと。
「そう、ですか……。ともかくありがとうございました……」と妖精の顔は暗くなりました。私の中にわずかに残る良心がずきりと痛みましたが、一度知らないと言ってしまったからには、もうあとには引けません。
 私は善人なんかじゃありません。騙して儲けられる機会があるなら、積極的に騙していくのが私です。お金は、良心なんかよりもずっと大切なものですから。
「それじゃ、そういうことで」と私はパトちゃんに乗馬し、さっさと立ち去ろうとしました。手綱を握ると、うわ言のような妖精の声が聞こえてきました。
「どうしよう……、どうしよう……。あれがないと、女神様にどれだけ怒られるか……。もしかしたら、私もう天界には帰れないかもしれない……」
 私はずきりずきりと痛む良心を抑え、手綱を振るいました。パトちゃんもゆっくりと歩き始めます。ごめんなさい、妖精さん……。あなたの事情は知りませんが、私はお金のためなら悪にもなる人間なんです……。お金さえあれば、あんな事件は起きなかったんですから……。
 そんな風に思ったのも束の間、めそめそ泣いていたはずの妖精は再び私の目の前に飛び出してきました。二度目だと言うのに、私はまたびっくりしてしまい、手綱を強く引っ張ってしまいました。当然、パトちゃんもつられてびっくりです。一瞬、落馬しそうになりましたが、なんとか体勢を立て直しました。