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還るべき場所・3/3(結

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 まず、カルロは何故消えたのか…。カルロにとってペストは死の象徴であった。結衣はそれを知っていたから、カルロに感染させ、魂に死を植え付けたのだった。そしてサーラも恐らくそう願っていた…。あの場所でみた記憶、いや記録か?によれば、元々サーラの願いは父の無事であって、医師に向けられた憎悪を晴らすことでは無かった。夢に現れたのも、もしかしたら最初から助けを求めていたのかもしれない。いつまでも消えない父の憎悪を消し去るために…。
 
 問題はここからだ…。あの暗闇で輝いていた場所が何か…。

河で現れた、カルロとサーラ、そして結衣はすでに魂のみの存在であった。死後、肉体から解放された彼らは魂の内に眠る、いわゆる元型、つまりあの輝く場所での記憶を辿り、一度還るはずだった。つまり集合的無意識や、イデア界などに良く似た、時間を超越した魂の起源に…。だが、魂に残された記録、あるいは傷とも言えるものによってそれぞれの目的のためにこの世界に留まっていたのだろう。
そして恐らくあそこは3次元空間では無い。もっと高次元の広がりを持っている。僕の魂はここにあるが、またあの場所にもあるのだから。僕の内にある魂があの場所に繋がっているのならば、第4以上の方向で繋がっているんだ。そして、あれは過去、未来を問わず、この世界と、もしかしたらあり得るかもしれない他の世界へと向かって魂の糸を伸ばしている…。なぜなら、あの場所にいた結衣は結末を知っていたと言ったから。そして結衣が死ぬ前に、僕に働きかけていたから…。

 ユングによれば、自分の魂の内に眠る元型によって意識が影響を受けることはあっても、通常その元型や、その集合たる集合的無意識という繋がりには気付けないはずだった。しかし、夢の中でサーラや結衣と繋がった時やあの3人が還る時に、僕と僕の魂はあの場所の、あの焦がれるような光を見てしまった。河での光は3度目だったはず。おかげで僕の魂はついに還りたい衝動に駆られてしまい、そして僕の意識は魂が一瞬思い出したあの場所に触れてしまった?そして見た。3次元しか認識できない僕という意識には球体にしか見えなかったが…。

(なるほど、だとしたら僕にはまだあの場所は早い…確かにな…)

なぜなら、通常その場所は魂だけが行ける場所で、肉体から生まれる意識と共に行くことはない。僕という意識は絶対に気付けないはずだったから。あそこは肉体から離れ、この空間とお別れして初めて還ることの出来る場所だった。また会える、の意味も分かった。
 
(それまで楽しみにしてるよ、結衣)

 僕は幼いころに科学博物館で見た、プラズマが揺らめくボールを思い出した。名前を何というのかは忘れてしまったが、ガラスのボールの中で紫色のプラズマが淡く光っていて、ガラスに掌をあてると筋のようなものが掌に集まった。今でもはっきり覚えている。誰でも見たことはあるだろう。何となく、僕はそれがあの輝く球体に似ていると思った。中心の電極にある大きなプラズマがあの輝く大きな球体、つまり魂の起源で、外側に伸びた筋が、僕に伸びた魂だ。掌が僕の意識だとしたら、その感覚、視覚などは手の甲、つまり外側へしか向いていないんだ。だから気付けない。魂の糸が触れていることに。たまに優秀な他の意識の掌が自分にプラズマの先が付着していることに気付くことがあるが、その筋はガラスという壁に遮られていて見えないのだ。見えるのはそこにピタッと付着しているプラズマの先、円盤のように見える部分だけ。実際には、それは第4以上の方向に伸びていて、その方向を認識できないからなのだろうが…。とにかくその筋や大元のプラズマには気付けない。そしていずれ僕の掌が離れ、他の誰かの掌に同じ筋が付着する。これは僕が死んで魂が還り、再び他の新しい誰かの魂になったイメージだ。僕は幸運、いや超ラッキーで、魂の先っちょがガラスをノックして窓を開けてきた。先っちょ曰く「僕ちょっとあっちにあるお家に帰りたいんだけども…」というところか。しかし、信じられないことに、中心の球体には時間が存在しない。過去から未来まで、誰がガラスに手を触れ、どんなものを見てきたかが全て記録されている。多分中心のプラズマにいる神的な魂君には、ガラスの外の時間の流れは、映像の重ね合わせでできた、1本の線に見えていることだろう。

(…うーん…そういうことでいいのかな?そっちの結衣さん?)

答えは無かった。まぁ、当たり前か、そう思って少し可笑しくなった。

 横目で今井さんをみた。思えば初めて明るいところで彼女みた。意外と可愛いじゃないか、そんなことを考えていると、今井さんが目を覚ましてしまった。
 (やばっ!…)
 
 「大沢くん、ありがとう」
 「え…ああ…先に佐藤か柳田に聞いてたの??」
 「ううん、河でのこと、覚えてる。意識はあったのに、止まらなかったの」
 「そっか…でも君のことを助けたのは僕じゃないみたいだよ」
 「…え?」
 「結衣だよ。結衣と…サーラって子」

僕は今井さんに話すべきことを、ゆっくり語りだした。時間は十分にある。しばらくはこの病室から出ることはできないだろうし…。だが、今井さんは理解してくれるだろうか?

言葉通りの夢のような体験と、僕が見たあの輝く場所のことを…。



エピローグ


8月30日 19:20



 あの日、8月18日に全てが終わった後、安置されていた結衣の遺体から痣が消えたらしい。検視官も頭を抱えていたそうで、結局溺死ということで遺体を引き取ることが出来たようだ。今井さんが発症した時、あの河で結衣が終わらせてくれていなかったら、大変なことになっていたかも知れない。そしてすぐにひっそりと葬儀が行われ、僕と今井さん、柳田、佐藤はそこに参列した。僕は不思議と悲しくは無かった。もう既に十分泣いていたことも一つだが、結衣の魂があの場所にいて、いつかまた会えることを知っていたから。そして最近ようやくあっち側の結衣が言っていたように、僕も今井さんも人生を楽しもうという気持ちになれたのだった。

 そして今日である。
 まるでもういい加減楽にさせて!そう言いたげな彼らは僕らの前を通り過ぎていった。また奥から現れては、どこかへ連れて行かれる。そうやってクタクタになるまで見せ物にされるのだ。なんてもったいない…。上のタッチパネルで好みを選んでボタンを押すと、それが連れて来られるシステム。僕の好みは淡泊で肌の白い子、というか白身魚だ。しめ鯖やえんがわは僕の好物だった。本当はこんなはずではなかったのに…これじゃまるで恰好がつかない。回るとしても、せめて中トロで1000円はするような、ちゃんとした所へ行きたかった。こんな一皿100円の家庭的な寿司で本当によかったのだろうか?そう思いながら、今井さんを見た。彼女が苦笑いしながら言った。

 「まだ言うの?もういいってばぁ」
 「いや、でも…」
 「い・い・の!!!!」

彼女曰く、こういう家族連れが多いようなアットホームさがいいのだという。僕の後ろの席には男の子を連れた家族がいた。

 「ママー、プリンとっていい?」
 「だーめ!食べ終わってからね?」
作品名:還るべき場所・3/3(結 作家名:TERA