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還るべき場所・3/3(結

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男の子はプリンが食べたくて仕方がないようで、まだ母親にぐずついている。だが、そんな光景を向かいの今井さんは暖かい目で見つめていた。結衣に良くしてくれた感謝の気持ちだからと言って、息巻いていた自分が情けなくなった。

 「でも、まだわからないんだぁ」

急に今井さんの表情が曇った。

 「結衣は、結局どうなったの?ちゃんと還るべきところへ還れたのかな?」
 「心配ないよ。病院でも話したけど、僕は向こうで彼女に会ったし、ちゃんと結衣の記憶もそこにあった。還ることが出来たんだよ。もしかしたら、今何処かの女性の中で生まれた命に結衣がいるかもね」
 「ふふっ、そっか、そうだといいな。もう一つ。結衣が…河に入る前に、君の夢に言葉が伝わったのはなぜ?結衣の魂はまだ結衣にあったはずでしょ?」
 「そこは難しいところだね。それは彼ら、いやあの輝く場所では過去から未来まで全て収まっているからだよ。例えばこっち側で考えると、僕の人生が終わって魂が還った後、僕の人格や記憶が収められると思うよね?」
 「うんうん」
 「じゃあ現時点で、あの場所には僕の記録は無いと思う?」
 「無いんじゃないの?だってあなたはまだ生きているもの」
 「そこがここと向こうの違うところ。向こうからすれば、僕は死んで魂が還るところまで終えている。それどころか、僕のものだった魂が、同時に過去の誰かのものになったり、未来の誰かのものになったりもしている」
 「ええ!?ますますわからないよ!!!」
 「つまり僕らにとって時間は目に見えないし、不可逆的に流れていて先の読めないものだけど、彼らにとっては過去から未来まで全て見渡せているってこと。こうして僕が君と寿司を食べている今の時間も、ここへ来るために今井さんが運転してくれた過去の時間も、これから残念ながら訪れるであろう僕が会計を済ます未来の時間も、向こうにしたら大して違いはない。こっちで言う過去の時間に新しい命が出来ていたら、今からその命に魂の糸をくっつけることが出来る。ごく普通のこととしてね。」
 「へ、へぇ~」
 「…とは言うものの、それはそう考えると説明がつくってだけであって、いわゆる推測なわけです。結局は考えても仕方ないよ」
 「そうだね。私ウニ!!」

しまった…ウニは100円じゃない…。ちょうどその時、僕の頼んだしめ鯖が運ばれてきた。まぁ今井さんにもいつか分かる時が来るだろう。僕も彼女もいずれは還る場所なのだから。
 (君は今回は魚だったんだね。海はどうだった?)
そんなことを考えていると、少し食べにくくなってしまった…。頂きます、の大事さが変な意味で理解できてしまう。ともかく今は目の前の美人と2人で夕食を食べられることに感謝しよう。そして世話になった結衣にも。そう思い、しめ鯖を頬張った。





END

作品名:還るべき場所・3/3(結 作家名:TERA